私は45年間、ホテルオークラに勤務いたしましたが、総支配人や代表取締役など経営トップとして三つのホテルの経営再建に携わりました。もちろん、これらのホテルの規模、状況、立地などそれぞれ異なっていましたが、お陰さまで三つのホテルすべて、立て直しに成功することができました。

業界誌などメディアの方々から「なぜ金子さんが行くと良くなるの? 何か特別なノウハウでもあるのですか?」という質問を受けましたが、私の答えはいつも素っ気なく「特別なノウハウなどありません。ただ、社員の皆が会社のため、お客さまのために本気で働いてくれたお陰です。それ以外何もありません。」ですので、この件に関しては記事として取り上げられたり、インタビューを受けたりしたことはありませんでした。

自分が経営トップとして、再建の仕事に没頭しているときは、誰かの本を読んでそれに共感しその手法にもとづいて行動をしていたわけでもありません。のちに評判の本を読んで私の取っていた行動は、この本の著者の考えと同じだったのだと感じたことはありましたが、ごく自然に「率先垂範」と「経営の透明化」を行ない、そして経営の視点を現場とお客さまに置いて当たり前に仕事をしていただけなのです。

私は決してカリスマ的なリーダーではありません。将来を的確に読み取るような能力もありません。もちろん例外的な社員もいましたが、なぜか社員が私についてきてくれたのです。
自慢話をするのは好きではありませんが、私の人間性というかまたは信条というか、そういうものについてきてくれたのではと勝手に推測しています。

私の信条は「自利利他」。

社会人となって働き始めてからこの軸は一度もズラしたことはありません。「自利利他」の解釈については意見が分かれていますが、私の解釈は「まずは他人を利する、そうすればめぐり巡って自分に利することが帰ってくる」です。ですから、「生活の糧のためにお金を稼ぐ」ということを働く目的の第一義とはしていませんでした。

三つのホテルの再建の過程で、お付き合いさせていただいていた方がたから、いろいろな形で助けていただき、再建に成功することができました。また、天命に従って仕事をしていたお陰でしょうか、取りまいていた厳しい環境が急に好転するというような幸運にも恵まれました。

立て直したホテルを辞めて10年以上経っていますが、訪れれば苦労を共にした当時の社員は皆、いまでも大歓迎してくれます。

4月に喜寿を迎えますが、いま、77年間の人生を振り返ってみて、自分は本当に幸せ者だと心の底から思っております。そして感謝の念でいっぱいです。

2013年3月7日
株式会社JAPAN・SIQ協会
代表取締役 金子 順一