CSR(Corporate Social Responsibility)
企業の社会的責任という言葉は、昨今、企業でもメディアでもごく普通に使われていますが、その意味を正確に理解している人は少ないのではないかと思います。それもその筈で、CSRの解釈が多岐にわたり、国際的にも、国内的にも統一された正式な定義が存在していないという実情があります。
EUにおける定義と、アメリカにおける定義とでは多少違いがありますし、日本国内における経済産業省や経済同友会が発表した定義は、いずれも抽象的で具体性に欠けます。広辞苑(第6版)では「企業は利益を上げ、最低限の法的責任を果たすだけでなく、企業活動を通じて市民や地域、社会の要請に対し積極的に貢献すべきとする考え」と説明しています。
松下電器産業(現パナソニック)の創業者 松下幸之助氏が定めた企業の社会的責任とは「企業本来の事業を通じて、社会生活の向上、人々の幸せに貢献していくこと。 その事業活動から適正な利益を生み出し、それをいろいろな形で国家社会に還元していくこと。
そして、そうした企業の活動の過程が社会と調和したものでなくてはならいこと」です。企業の使命(ミッション)を含めたこの定義が一般の方々には一番分かりやすいのではと私は思います。
先日、近江商人のふるさと「五個荘町」を訪れました。ご存知の通り、江戸時代から明治時代にかけて、多数の近江商人を輩出した地として知られています。商売に精励し財を成した近江商人の屋敷が数軒、一般に公開されています。
とくに豪商といわれた家では、必ず家訓、家憲などが残されており、中村治兵衛家の家訓は「他国へ行商するも総て我事のみと思わず、其の国一切の人を大切にして私利を貪ること勿れ・・・」、近江商人の基本理念として有名な「三方(さんぽう)よし」で、「売り手よし、買い手よし、世間よし」です。
商いには信用や信頼が大切であるという教えですが、これは当たり前といえば当たり前のことですが、もう一つ「世間よし」という考え方が特筆されます。これは、売り手と買い手を含めた社会全体のために良いことをしようという考え方です。つまり、生産者も消費者も含めた社会全体が良くならなければ、
商売は成り立たないという教えです。
松下幸之助氏や昨今のCSR(企業の社会的責任)に相通じる理念にもとづいて、近江商人はすでに江戸時代に商売をしていたのです。また、どこの家にも共通して書かれているのは、質素、倹約、勤勉、堅実であり、それらの信条を徹底的に貫き通すところに近江商人の偉大さが伺われます。
そして商売の基本を「商人は人間としての心が大切であり、商いとは人との出会い、心のふれあいそのものである」としています。これも、現在のホスピタリティ精神に相通じるところがあるのではないでしょうか?
2013年6月22日
株式会社JAPAN・SIQ協会
代表取締役 金子 順一