マルハニチロの子会社、アクリフーズ群馬工場で製造した冷凍食品に農薬マラチオンが混入されていた事件で、自社のピザ製造ラインの契約社員がマラチオンを混入させた疑いで逮捕されたことはご存知のことと思います。

当初の各メディアの取材では、製造ラインに従事している従業員の話として、工場の製造ラインは厳重に管理されている。例えば、仕事場に入る前にボディチェックをする、仕事服にはポケットが無い、もしある場合でも縫い付けられていて製造ラインに物を持ち込むのは容易なことではない。また、他の従業員も同時に働いていて、他人の眼もあり、製造ライン上で異物を混入させることは難しいと思うとの報道でした。

また、カメラも設置されていて製造ラインは厳重に監視されているので、製造ラインで不審な動きをすれば直ぐに分かるとの会社側の説明もありましたので、我々には完全な防御管理体制が構築されているように見受けられました。

しかし、調べを進めていくと、包装前の商品を試食するラインでは、新製品ができあがると、休憩時間には試食ラインの担当者以外の従業員も集まってきて、一緒に試食をしていたという事実が判明しました。

現在では、ご存知のように様々な企業がコンピューターによる管理システムを構築し、業務の円滑化、効率化を図っています。最近のIT技術の進歩は目覚ましく、より信頼性の高いシステムの構築が可能になりました。

しかし、コンピューターのプログラムや管理システムを構築するのは人間であるということが忘れかけられているのではないでしょうか。人間である以上、完全無欠なシステムを構築することはあり得ません。ハッカーなどはシステムの0.1%の隙間を見つけて攻撃してくるのです。また、そのシステムを運用したり、メンテナンスするのも人なのです。ですから、最終的には人間の質というところに行きつくのです。

犯行の直接的な動機は、犯人の給与が下がったことで、会社に恨みを抱くようなったのが原因のようです。脳科学者の池谷裕二氏によれば、人間の脳は、他者の客観的な評価よりも自分の能力を高く評価するクセがあるとのことです。ですから、犯人は自分は仕事の能力も高い「できる奴」と思っていますが、第三者の評価は決して高くないと判断されたために給与が下がったのではと推測されます。

また、犯人はチョッと変わった言動をする人間であったことは周囲の人々は知っていましたが、直属の上司は一風変わった人格の持ち主であることを知っていたのでしょうか?常日頃からどの程度、犯人である従業員とコミュニケーションを取っていたのでしょうか?さらに、この工場のトップである工場長は、製造ラインをはじめとする現場の状況をどの程度把握していたのでしょうか?

食品製造業界は、2007年に起きた中国産の毒入り冷凍ギョーザ事件以来、かなりフードディフェンス(食品防御)に力を入れてきましたが、安全設備の強化だけでは限界があることを知らされた事件であり、現場のリーダーと部下のスタッフとの信頼関係の構築の大切さを改めて認識させてくれました。

そして、健全な職場を形成し、企業が繁栄していくには、最終的には経営トップと現場を率いる中間管理職の人間力が一番重要であるという私の持論を裏付けてくれる事件でもありました。

2014年5月7日
株式会社JAPAN・SIQ協会
代表取締役 金子 順一