軽井沢のスキーバス転落事故から1か月余が経ち、そろそろ皆さんの記憶から消え去ろうとしているのではないでしょうか?しかし、この事故は今の日本の社会の歪みを反映した事故であり、決して忘れてはならない事件です。

2016年1月15日未明、軽井沢町のスキーバス転落事故で乗客13名の尊い若い命が失われました。合掌。
その犠牲者の一人、早稲田大学国際教養部の4年生 阿部真理絵さん(22歳)のお父上は、通夜のあと報道陣の取材に応じ、次のような素晴らしいコメントを読み上げました。

「今回の事故については、憤りを禁じ得ませんが、多くの報道を見ていると、いまの日本が抱える、偏った労働力の不足や、過度の利益の追求、安全軽視など、社会問題によって生じたひずみによって発生したように思えてなりません。今回の事故については、警察によって原因と責任の追及がなされ、また行政による旅行業者の問題の洗い出しや改善が行なわれることを期待しておりますが、すぐに良くなるものではないと思っております。きょうも多くの若者が出かけているでしょう。ぜひ自分の身は自分で守るということを考えてください。優先順位を間違えないこと、安全は“マスト(Must)項目”であり、費用削減は“ウォント(Want)項目”であることを冷静に考えてほしいと思います。」

と沈着かつ冷静、そして今回の事故の真因は、現在の日本社会の歪みの表れであると、的確で鋭い指摘をなさっておられます。外国に比べて日本の企業は効率性、生産性が劣っているという投資家や評論家の言葉に踊らされて、日本の経営者の大半が過度に利益を追い求めてモラルなど無視していること、加えて慢性的な人手不足などが今回のバス事故の大きな要因になっていると私も同じ考えです。

もちろん、Going-concernとして企業は利益を出していかなければ存続できません。そして利益を上げることで税金を支払い、社会に貢献することは重要かつ大切なことです。しかし、最近は、事故を起こしたバス会社(ESP)のように、企業倫理やコンプライアンスを無視して利益を追求し、不祥事を起こしている企業が何と多いことかあきれるばかりです。

例を挙げれば、超一流企業といわれる東芝の不正会計事件、旭化成建材の杭打ちデータの改ざんによる横浜のマンション傾斜事件、化血研の不正血液製剤の製造、東洋ゴム工業の地震用免震ゴムデータの改ざん。さらに食品産廃処理業者“ダイキ”と“みのりフーズ”が結託して、廃棄を委託された冷凍食品を横流ししてスーパーや小売店で販売するという日本人として考えられないような事件。

そして全国的には報道されていないと思いますが、最高学府である同志社大学の事務方のトップが、大学構内のゴミ処理を、市の認可を受けていないゴミ処理業者に委託し、その見返りとして3年間で2億9千万円を大学への寄付というかたちで還流させていた事実が発覚しました。おそらく理事長からは覚えめでたき人物として重用されていたのではと思います。

これらはすべて名誉欲、金銭欲、自己顕示欲、出世欲など人間の強い欲の塊りによって引き起こされているのです。もう少し日本人としての矜持を持てないのでしょうか。

もうすぐ、東日本大震災(3・11)から5年、それを契機に、日本の社会は人と人との心の繋がりである 「絆」 を大切にしていこうと第一歩を踏み出したのではなかったのでしょうか?

2016年2月22日
株式会社JAPAN・SIQ協会
代表取締役 金子 順一