環境問題をマルクス主義の視点から読み解いた「人新世の資本論」(集英社新書)という本が専門性の高い内容にもかかわらず32万部を超えるベストセラーになっています。「人新世」とは、オランダの大気学者でノーベル化学賞を受賞したパウル・クルッツェン(Paul J. Crutzen)が提唱した地質学の新しい時代区分です。

地球の歴史には白亜紀、ジュラ紀といった地質時代があり、現在は258万年前に始まった新生代第四紀の「完新世」が1万1700年ほど続いているとされています。しかし地球の環境は様変わりしてしまいました。 ビルが乱立し道路やダム、ごみ捨て場、農地開拓などで森林をはじめとする手つかずの自然が減少の一途たどっています。大気中の二酸化炭素は増え続け、ご存じのように海の中はマイクロプラスティックのゴミで溢れています。

産業革命後の約200年の間に人類の資本主義経済活動による自然破壊は余りにも大きく、「完新世」はもはや人類が生み出した「人新世」の時代になっているというのがクルッツェンの見解です。ただし「人新世」は、現時点では地質学の国際組織「国際地質科学連合」に認められた時代区分ではありません。

昨年12月、イスラエルの研究機関が英国の科学雑誌「ネイチャー」に発表した推計によれば、コンクリートや金属など地球上にある人工物の総重量が、2020年に生物の総重量を上回ったという。20世紀初めには、生物の3%に満たなかった人工物は工業化の進展に伴って爆発的に増加し続け、1兆トンを超え、地球の表面を建物や道路などが覆いつくしている。

そして20年後には今の2倍になると推計しています。一方、生物は減少傾向で、森林破壊などの影響が表れているという。研究機関は「人間の活動が地球に大きな影響を及ぼしている“人新世”を特徴づける結果である」と強調しています。

「人新世の資本論」の著者斎藤幸平大阪市立大学准教授は 「地層は通常、人間から独立して形成されてきたものだが、それさえも人間の経済活動が変えるようになった。それほどまでに資本主義が地球環境にもたらす負荷は大きい。では人間が自然を操れるようになったかといえば、全く逆である。

異常気象による水害や山火事など、自然の脅威に襲われるようになり、私たちの生活が根本から揺るがされる逆説的な事態が起きている。その人新世における象徴的な危機が気候変動である。

このままいくと人類の文明が本当に脅かされるような危機的状況がやってくる。今まで当たり前としてきた経済成長や資本主義のグローバル化など、どこかで根本的に見直さないといけないような転換点に来ている。

社会システムや人間と自然関係性を大きな視点から問い直したいと考え、本のタイトルに“人新世”を入れた」と気候変動の危機に警鐘を鳴らしています。

気候変動は今日明日の緊急問題ではなく、これから生まれてくる世代の20年先50年先の問題でもあるため、どうしても先送りされがちです。しかし現実は「今でしょ」の問題であることを理解していただければ幸いです。

気候変動がもたらす危機的状況とは具体的にどのような状況が予測されているのか? そして、その解決策はあるのか?については別の機会にご紹介したいと思っております。

2021年(令和3年)8月8日(東京オリンピック閉会式)
株式会社JAPAN・SIQ協会
相談役 金子 順一