今年日本で起きた大きな自然災害ですが、盛り土が崩壊し130軒もの家々を飲み込みながら街中を一気に駆け下る土石流の動画がテレビで放映されました「熱海の土石流」。残念ながら死者も25名に達しました。

皆さんの脳裏には生々しい記憶が刻まれていると思いますが、この時の累積降雨量は過去の最高と比べて48時間で113%、72時間で133%ですので、過去最高を大幅に上回ったわけではありません。住民の方々も物凄い雨が降ったという感覚はなかったと証言しています。やはり盛り土の施工不良が原因の人災と言ってよいのではと思います。

一方、8月初旬長期間にわたって日本上空に停滞した梅雨前線が日本各地に大雨を降らせましたが、記録的な大雨が九州北部(長崎・佐賀・福岡)で観測されました。この地方の降雨量は8月1日から20日までの20日間でなんと平年の約6倍(605%)に達しています。

町中が浸水した佐賀県武雄市では、雨が8月11日から17日まで降り続き、7日間の総雨量は1,300ミリ に達しました。このため市内を流れる六角川の氾濫と内水氾濫により4平方キロメートルにわたり冠水。床上浸水1,273棟、床下浸水390棟の被害が報告されています。

さて、世界でいま起こっている自然災害ですが、先ずは中国からご紹介します。
中国中部の河南省鄭州市で、7月17日から3日間で総雨量600ミリを超える雨が降りました。 これは年間降雨量に匹敵する雨量で、死者300人、行方不明50人。水没して使用不能になった車はなんと23万8千台に上りました。

そして鄭州市営地下鉄5号線では午後6時、トンネル内で停止した車両に浸水。約300人が乗車しており、大人の胸の高さまで水位が上がり、酸欠で意識不明になった乗客が相次ぎ12人が死亡したとのことです。

 

次は、ドイツ西部やベルギーを中心にヨーロッパ各地で7月14日から15日かけて発生した大雨による洪水の話です。この豪雨による災害は、ドイツでは100年に一回、ベルギーでは1000年に一回の大洪水といわれています。

とくに被害が大きかったのはドイツ西部のラインラント・プファルツ州アールウィラー郡で、あの有名なライン川の支流アール川が氾濫し7月29日現在134人が死亡、行方不明者が69人出ています。 アール川流域では1日で7月1か月間の降水量を超えたとの報道です。さらにノルトラン・ウエストファーレン州では47人が死亡しています。

被災地では広範囲にわたり、電気、ガス、水道が止まり、通信インフラも被害を受け携帯電話も不通になっていて市民生活に大きな支障が出ています。ドイツでは9月26日に連邦議会選挙(新しい大統領が選出される)が行われますが、すでに気候変動問題が選挙の一番大きな焦点になっています。この大雨でドイツの隣国ベルギーでも38人が死亡、1人が行方不明になりました。

またオーストリアの首都ウイーンでは7月17日 豪雨に見舞われ市内の道路が冠水、1日で過去1か月の降水量を越えたとのことです。

 

次は、地中海沿岸の国々で多発した森林火災と最高気温更新のニュースです。
今年の夏、南欧など地中海沿岸国々は記録的な熱波に襲われました。極端な高温の原因は地中海上空に広範囲にわたり停滞した高気圧が、地上の空気に「ふた」をして気温を上昇させる「ヒートドーム」と呼ばれる現象を起こしたためと言われています。

北アフリカのチュニジアの首都チュニスでは、8月10日 49.0℃を観測、過去最高を記録しました。8月12日にはイタリア南部シチリア島フロリディアで48.8℃を記録、ヨーロッパ観測史上最高気温を更新しました。
また8月3日 ギリシャのアテネでは今までの最高気温48℃(1977年)に迫る47.1℃を観測しています。

熱波に襲われた地中海沿岸諸国は各国で山火事が頻発しました。
ギリシャでは、全土で586件にも上る大規模な山火事が相次ぎ、キリアコス・ミツォタキス首相は8月9日のテレビ演説で「未曽有の自然災害」と位置づけました。首都アテネの近郊マティノの山火事では住民74人が死亡、黒煙がアテネ市の上空を覆い、市民は外出を控えるよう要請されました。また、エヴィア島で発生した大規模な山火事では、住民および観光客が船で島を脱出、退避しました。

アルジェリアでは、東部で発生した山火事で少なくても65人が死亡しています。

イタリアでは、シチリア島をはじめとして南部地域で8月12日 半日の間に528件の山火事が発生。シチリア島では火が住宅地や果樹園にまで燃え広がり少なくとも5名が死亡したと報道されています。

熱波に襲われたのはヨーロッパだけではなく、カナダのブリティッシュ・コロンビア州リットン村でも、6月28日に47.5℃を観測、史上最高気温を記録しました。このため落雷により大規模な山火事が起き、リットン村の90%が焼失しました。カナダの場合も地中海沿岸と同様にヒートドーム現象が発生したとのことです。

最新の報道によれば、米国ニューヨーク州やニュージャージー州で9月1日夜から2日未明にかけて記録的な豪雨が降り、道路が冠水し家屋が損壊しました。マンハッタンでは地下鉄の駅に濁流が流れ込み全面的に運行が停止、またニューアーク国際空港の1階部分が浸水し370便が欠航するなど被害が相次ぎました。降水量はニューヨーク中心部のセントラルパークで1時間80ミリ(3.15インチ)を観測し過去最多を記録。その他の地域でも9月の月間降水量を超える雨が一晩で降りました。降雨が短時間に集中し非常事態宣言の発令も深夜だったため、水が流れ込んだ住居の地下から逃げ遅れて死亡した人が40名に上りました。

この豪雨の原因は米国南部ルイジアナ州に上陸したハリケーン「アイダ」(最大風速67m)がその後、熱帯低気圧に変わり東部の州を通過したためですが、ハリケーンが上陸したルイジアナ州での死者は4名にとどまっています。これは2005年にハリケーン「カトリーナ」が同州を襲った際、約1,800人もの死者を出した教訓が今回の「アイダ」に生かされているのではと推察いたします。

以上、いま世界各地で見られる気候変動のごく一部を紹介しましたが、未来のことではなく気候変動がすでに始まっていることを認識していただければ幸いです。

2021年(令和3年)9月13日
株式会社JAPAN・SIQ協会
相談役 金子 順一